Friday, September 9, 2011

ベトナム首相、6度目の正直に期待? 10月にも訪日



アジアBiz新潮流 ハノイ支局・岩本陽一

2011/9/7 7:00
 7月末に再任されたベトナムのズン首相が10月にも日本を訪問する。迎えるのは9月2日に就任したばかりの野田佳彦首相。首相在任期間が5年を超えたズン氏にとって、6人目の会談相手となる。過去5人と同様、今回もインフラ整備などで協力を要請する。“6度目の正直”に期待する一方、同じ説明の繰り返しに「内心うんざり」といった気分かもしれない。
■ベトナム関連の引き継ぎ不十分
ズン越首相(右)にとって、菅直人氏は5人目の日越首脳会談の相手だった(2010年10月、ハノイで開いた首脳会談)=代表撮影・共同
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ズン越首相(右)にとって、菅直人氏は5人目の日越首脳会談の相手だった(2010年10月、ハノイで開いた首脳会談)=代表撮影・共同
 2006年6月に就任したズン首相はこれまで、安倍晋三、福田康夫、麻生太郎、鳩山由紀夫、菅直人の5人の首相と会談。ベトナム政府が三大国家プロジェクトと位置付ける高速鉄道、高速道路、ハイテクパークなどへの支援を要請してきた。港湾、空港、地下鉄の整備などでも日本に協力を求めてきた。
 ただ、目まぐるしく首相が交代する日本では、ベトナム関連の引き継ぎが不十分な例も少なくない。
 新幹線方式の採用で注目された高速鉄道の場合、ベトナムが支援を要請しているにもかかわらず、日本側が「ぜひ、日本にやらせてほしい」と頼み込む場面もあった。同じ話を何度も繰り返してきたズン首相は、ほくそ笑んだに違いない。交渉は主導権を握った方が勝ち。「やらせてほしい」と頼まれれば、資金援助や技術導入、人材育成などあらゆる分野で有利な条件を引き出すことができる。
 韓国などが世界各地で大型プロジェクトの受注に成功しているのは、政官民が一体でプラント輸出の拡大に取り組んでいるためだ。超長期の政府保証など、従来のビジネスの常識を超えた条件を提示することもある。成長の原動力を海外に求める新興国では、首脳外交で受注を勝ち取る新しい形の「重商主義」が定着。一方、先頭に立つはずの首相が短期間で交代する日本は、強固なスクラムを組むことができず、苦戦を強いられている。
■原発建設問題が最重要テーマ
 今回のズン首相の訪日では、原子力発電所の建設問題が最重要テーマの1つになる。昨年10月、菅首相(当時)との会談で日本への発注が決まった。ベトナムは福島第1原発の事故後も「発注先は変えない」としているが、肝心の日本はどうも態度がはっきりない。ウラン燃料の共同調達や核物質管理に向けた人材育成など、7分野の包括支援策を提示して受注にこぎ着けた昨年の熱気はすっかり冷めてしまったかのようだ。リーダーシップの欠如が最大の原因だろう。
 原発関係者の間では8月、「菅首相が脱原発を明言した状況の中でズン首相に訪日されても困る」といった声が漏れた。昨年の日越首脳会談で受注を決めた菅首相本人の決断だっただけに、原発業界への衝撃は大きかった。慌てた政府は答弁書で当面の原発輸出の継続を打ち出したが、発注側のベトナムにはなお不信感が残る。
 菅氏からバトンを引き継いだ野田首相はベトナム向けを含むプラント輸出にどう取り組むのか。首脳外交を担うはずの首相の頻繁な交代と腰の定まらない政府の対応は、景気浮揚の原動力として期待されるシステム輸出の拡大に大きな打撃を与えかねない。「隙あらば」ともくろむ韓国などは、日本のドタバタ劇を横目でにらむ。“6度目の正直”への期待が空振りに終わっても、ズン首相は今後も「発注先は変えない」と言い続けるだろうか。
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麻生太郎、野田佳彦、菅直人、安倍晋三、福田康夫、鳩山由紀夫、ベトナム

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